『小説』野崎 まど

発行:講談社 2024年11月20日 4065373263

読むことが大好き。五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、とにかく小説を「読む」ことを求めた少年の物語。
読むことが好きな一方で、書くこと、読んだ感想を外に出すことはしない少年が「読むだけじゃ駄目なのか。」葛藤しながらも、日々読み、生きていく物語。

大好きだった本を読めば読むほど自分が人として駄目になっているように思えた。

自分の中にしかないこと、他人と共有できないこと、それが噓だ。

人間は自分のものを欲しがる。自分の内側を増やそうとする。所有物という以上に、そのものが持っている情報の全てを取り込んで、自分の内側を、精神を増やそうとするって。人の心は皆、心を増やすものを欲してるんだ……。心ってそういう風にできてる

一番大切なのは、自分の内側を増やすことだけだ。

どこか本当のように思えて、けれどやはり小説なのだから噓なのだろうかと少しだけ悩んだが、実際のところそれはあまり重要なことではなかった。ほぼ全てのページを読み終え、あと数行で物語が終わるというところに到達した時には、すでに多くの意味が本から精神へと運び込まれていて、読む前よりも必ず心の中が増して、一人の人間の意味が増えている。